アカデミックセッション/as1a

アカデミックセッション

ヒトとNGS:医療・科学・社会
座長: 三嶋 博之 (長崎大学原爆後障害医療研究所・人類遺伝学・助教)
三宅 紀子 (横浜市立大学医学部・遺伝学・准教授)
ID AS1a 日時 2013/9/4(水) 13:10-14:40 会場 A
概要 ヒトを対象としたNGSの応用は,これまで基礎研究を中心に華々しい成果を上げてきた。そして,本邦においてもさらにその対象分野と規模を拡大し実用化のフェーズに突き進もうとしている。本セッションでは,医療・科学・社会に強いインパクトを与える最先端の現場を4人の演者から紹介していただく。
  • 「溺死診断におけるメタゲノミクスの利用」
    小椋 義俊 (宮崎大学フロンティア科学実験総合センターゲノム生命環境科学研究部門 微生物ゲノム科学分野・助教)
  • 水辺で発見される変死体には犯罪に関わるものがあり、死因究明には特に慎重な診断が要求される。一方で、溺死診断は法医学において最も判定の難しい診断の一つとされている。溺死診断は、解剖所見、各種検査所見、さらに現場環境や警察の捜査等も考慮して総合的に判断されているが、判定に迷う事例も多く、新しい検査法の確立は診断精度向上のために急務となっている。
  •  溺死検査は、肺から肺胞の毛細血管を通過して体内に侵入・循環した水由来成分を血液や諸臓器(肺、肝臓、腎臓など)から検出することによって行われる。ただし、肺には死後でも水が入りうることから、肺以外の臓器や血液からの検出が重要である。一般には、珪藻を検鏡により検出する方法が用いられているが、諸臓器・血液からの証明は容易ではなく、検出率は50%以下である。
  •  そこで、本研究では、珪藻だけでなく藍藻、細菌など様々な水棲微生物を臓器・血液中からNGSを用いて検出する系の構築を試みたので、その概要を紹介する。
  • 「次世代シークエンサーを用いた遺伝子診断」
    才津 浩智 (横浜市立大学医学部・遺伝学・准教授)
  • 次世代シークエンサーの登場により、多数の遺伝子を網羅的に解析することが可能となった。これまでの遺伝子毎のPCR-シークエンスによる変異の検出と比べて、短時間でより多くの遺伝子変異を検出可能であるため、この技術を用いることで、より多くの症例の遺伝子診断が可能になると考えられる。本発表では、てんかん性脳症の既知の原因遺伝子に対するターゲットキャプチャーとデスクトップ型次世代シークエンサーを用いた遺伝子診断についてご紹介したい。
  • Integrated analysis of whole genome and whole transcriptome sequencing of HBV-associated hepatocellular carcinoma
    白石 友一 (東京大学医科学研究所ヒトゲノムセンターDNA情報解析分野・特任助教)
  • 近年の高速シークエンス技術の発展により,癌細胞におけるゲノム変異を網羅的に調べることが可能になり,様々な癌種において多くの新規癌原因遺伝子の発見が急速に進んでいる.一方,癌細胞におけるトランスクリプトームにおいては,スプライシングや融合遺伝子をはじめとする数多くの異常を生じていると思われるものの,これらの網羅的な検出の試みはほとんどなされておらず,特にゲノムの異常と転写異常の関連性について多くのことが未だにわかっていない.
  • 本発表においては,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus, HBV)由来の肝細胞癌のwhole genome sequence (WGS)とwhole transcriptome sequence (WTS)の統合解析結果について報告する.WGS解析により,point mutation,indel, structural variation, HBV integrationを網羅的に検出し,また,WTS解析により,splicing異常や融合遺伝子,発現の変化等の網羅的な検出を行う.その上で,「癌細胞におけるゲノム異常がどういった転写異常を引き起こすか?」についてのいくつかの観察結果についての報告を行い,癌原因遺伝子の検出においてWGSとWTSの統合解析を行うことの意義について論じる.
  • ヒト生命情報統合研究に向けた大規模ゲノムコホート事業の推進
    日笠 幸一郎 (京都大学・大学院医学研究科附属ゲノム医学センター・疾患ゲノム疫学解析分野・特定講師)
  • 京都大学ゲノム医学センターでは、ヒト生命情報統合研究のモデルケースとして、2005年より滋賀県長浜市で地域住民を対象にゲノムコホート研究を進め、10,082名の参加者について、環境・生活習慣調査、生化学・血液学検査などの情報や、SNPアレイを用いたゲノム多型の網羅的解析を実施している。また、生命情報統合解析の試験研究として、300人の市民を対象に季節性インフルエンザワクチンに対する反応という明確な目標を設定した介入研究を行い、SNP解析、Exomeシークエンシング、白血球RNAの発現解析、GC-MSによる代謝物の網羅的解析、FACSによるリンパ球の表現型解析など、統合オミックス解析を実施した。これらの解析事例、及び、情報を統一的に管理・運用・公開するために構築しているデータベースの概要について紹介しつつ、ヒト生命情報統合解析の戦略について議論したい。